ブラジルから日本へ出稼ぎにやってきた日系3世のマーリオ。売春婦の送迎とトラブル解決を生業にしているが、ひょんな事から中国人暴力団のボスの通訳をやらされる羽目になり、彼等と日本の暴力団が取引する麻薬と現金を略奪し、逃げ回る羽目になるというノワール小説。
嫉妬、呪詛、裏切り、多くの嘘と少しの真実、とお馴染みの馳ワールドが展開される。頭の回転は速いが、肝心なところで冷血漢に徹することが出来ずに自らを窮地へ陥れる。此の小説でも、大きな分岐点で内からの警報を感じ取るのに、警報を無視して危機的なシーンに何度も陥ってしまう。其の描写だけでは馳小説のファンだったら先の展開が何となく読めてしまう。
最後はマーリオ、そしてマーリオと略奪劇に付き合った日本人女性ケイの二人は凄惨な最期を遂げてしまう。主人公が凄惨な最期を遂げるのは馳作品の御約束であり、また主人公を関わり合いになったばかりに非業の死を遂げる周りの人間も御約束だ。此処までは馳の作品を何冊も読んでいるので意外でも何でもなかった。但し、此の小説では5歳の全盲の女の子まで殺してしまうシーンがあり、此には流石に衝撃を受けた。強気を欺し弱気を殺すのが馳作品の王道であるが5歳の子供まで殺してしまうとは予想外であった。馳作品の陰惨さに慣れ親しんでいる俺でも、子供を殺害する展開は読めなかった。恐るべし馳のストーリーテリング能力...。
主人公は凄惨な最期を遂げるし、子供は殺すし、読後に得るカタルシス等の類もない。純粋にノワール小説が好き、または楽しみたい向きにはお薦めだが、其の手の趣味がない人にはお薦めできない1冊だ。
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