東野圭吾の小説は此が初めてだ。書店で東野圭吾の作品が平積みされており、謎解きものを買おうか、それ以外を買おうかと悩んだ末に選んだのが此の一冊だった。
人生の岐路に立たされる度に殺人を意識する主人公と、彼を密かに人生の岐路に立たせる幼なじみの倉持修を軸としたストーリーテリングになっている。
人が生きていれば、ふとした瞬間に怒りが爆発することもあるし、人を憎むこともあるだろう。そのときに相手に対し殺意を抱いたり、衝動的に相手を殺してしまう悲劇も新聞やTVニュースで見聞することがある。
此の小説では主人公が殺意を抱くが、実際に行動に移す確固たる理由が見つからずに殺人を躊躇したり、今回こそは殺害するぞといきり立っているが実際に相手(倉持)と対峙したら気勢を殺がれてしまうの繰り返しである。
自分が誰かを殺害すると想像したら、殺害する為には非常にエネルギーを費やすし、警察に捕まらないようにと考えるととうてい実行する気にはなれない。此の小説の主人公もそうである。其れだけに、或る意味で主人公に感情移入しやすく最後まで飽きずに読むことが出来た。
最後まで倉持を殺害することが出来なかった主人公が、最後の最後に祖母の死に立ち会った記憶がフラッシュバックし、植物状態の倉持をの首を絞めてしまう結末には、やられたと思ってしまった。最後まで人を殺すことが出来なかった主人公の結末はと想像していたが作者に裏切られてしまった...。
殺意を抱く度に、「殺人を犯すに動かしがたい確固たる理由が必要である」という主人公の持論に従うと、衝動的に倉持の首を絞める主人公の行動は矛盾しているが、其れが人間という生き物の持つ複雑さだろう。人は理屈だけで行動する訳ではない、ということをしみじみと思った。
安易に人が殺されるミステリは食傷気味の人や、心理的描写に重きを置いたストーリーを楽しみたい人にお勧めの一冊。
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